
多くの人が気軽に宇宙に行ける未来を目指して!
九州大学でロケットエンジンの開発に挑戦
有明工業高等専門学校
創造工学科 メカニクスコース 5年
北岡 隼斗さん
有明高専5年生の北岡隼斗さんは、九州・沖縄の9高専と九州大学の連携教育プログラムを利用して、九州大学の先進宇宙ロケット工学研究室へ進学されます。(公財)日本高専・大学支援財団の奨学金のおかげで、勉強や趣味、部活に費やす時間を増やせたと話す北岡さんに、高専卒業後の進路や実現したい夢などをお伺いしました。
取材日:2025年2月18日
宇宙への憧れを研究に——機械工学からロケット開発へ
有明高専の創造工学科 メカニクスコースに進学されたきっかけを教えてください。
昔から車やバイクなどの機械が好きだったこと、また中学生の時は理系が得意で工業系に興味があったことから、高専への入学を決めました。

コース決定の際は、機械だけでなく宇宙にも興味があったため、ロケットや人工衛星の開発に携わりたいと思い、メカニクスコースを選びました。
高専ではどのような勉強をしてきましたか。
四力学と呼ばれる、熱力学、流体力学、機械力学、材料力学に加えて、電気、情報系の分野についても勉強しました。
機械以外にも広く学べる環境で、苦手な電気系分野の克服のために電気工事士の資格取得を目指したり、情報系の勉強をする中でプログラミングを学んだりと、自分の視野を広げることができたと思います。

高専生活での思い出を教えてください。
寮生活ではかけがえのない友人ができました。2年生の終わりまで寮で過ごしましたが、日々の生活が楽しく、毎日友達とお泊まり会をしているような感覚でした。
特にテスト期間はわからないことをすぐに友人や先輩に聞くことができ、勉強しやすい環境だったと感じています。悩みごともすぐに相談でき、支え合いながらの生活で、本当の兄弟のような関係が築けました。

高専卒業後はどのような進路に進む予定でしょうか。
2023年からスタートした「九大工学部・九州沖縄9高専連携教育プログラム」に3期生として合格したので、高専本科卒業後はそちらに進学します。
このプログラムは、九州・沖縄の9高専と九州大学が連携し、双方の授業の受講や共同研究を行うことができる制度です。九州大学と高専専攻科のどちらにも在籍している形となり、両方の単位を取得することで、九州大学での学士と専攻科修了証の両方が授与されるのが大きな特徴です。
このプログラムに参加しようと思った理由は何でしょうか。
高専専攻科に進むと、同じ学校に7年間通うことになるため、環境の変化が少なく視野が狭まってしまうと感じていました。そこで、九州大学と専攻科という2つの異なる環境で多様な視点を養え、自分の研究や学問を深められるこのプログラムへの参加を決めました。
九州大学で配属される研究室は決まっていますか。
はい。九州大学の先進宇宙ロケット工学研究室を志望し、希望が通ったのでそちらに所属します。この研究室では主に、新たなロケットの推進機構の研究開発に取り組んでいます。
現在のロケットエンジンは二液式ロケットエンジンと呼ばれ、燃料と酸化剤を反応させ、そのエネルギーで推進する方式が主流です。一方、この研究室では、核融合によって発生するプラズマの力を利用してロケットを飛ばす研究をされています。

私は現時点ではプラズマや電磁気学などの分野の知識がまだまだ足りないので、まずはしっかりと基礎を勉強してから研究に取り組みたいと思っています。
核融合を利用したロケット推進機構が注目されている理由は何ですか。
理由の1つが環境負荷の低減です。従来の化学燃料を使用するロケットは排気ガスを発生させ、大気汚染の原因となる可能性があります。また、重量が重いのも課題です。
一方、核融合を利用すれば排気ガスを大幅に削減できます。また、重量の節約もでき、重量が減った分、人工衛星やその他の機材を積載できるようになるのもメリットです。
4年生の夏休みに、九州大学の希望の研究室でインターンシップに参加されたそうですね。
はい、2週間参加させていただきました。実際に志望している研究室で研究の様子を見学したり、研究をお手伝いさせていただいたりする機会があり、そこで行われている研究について学ぶことができました。
特に、自分が希望しているロケットの研究が実際に行われている現場を間近で見られたのはよかったなと思います。九州大学への進学を決める大きなきっかけとなりました。
大学を卒業してからの進路はどのように考えていますか。
現時点では、そのまま九州大学の同じ研究室に残る形で、大学院に進学したいと考えています。大学院で学んだ後は、ロケットの研究や開発に携わる仕事に就きたいです。
ロケットを通じて実現したいことはありますか。
現状、宇宙はまだ遠い存在と感じる人が多いと思います。しかし、もし核融合ロケットが完成すれば、従来よりも格段にコストを抑えられるため、より多くの人に宇宙を身近に感じてもらえるのではないかと考えています。
また、将来的には自分自身も宇宙に行ってみたいという夢もあります。宇宙旅行がより身近になり、多くの人が気軽に宇宙へ行ける未来の実現を目指して、研究を進めていきたいです。
勉強も趣味も、高専だから全力で取り組める
日本高専・大学支援財団を知ったきっかけは何だったのでしょうか。
本校の学生課から送られてくる通知メールで知りました。3年生までは別の奨学金を受給していたのですが、その奨学金は3年間が対象で、4〜5年生には適用されないものだったんです。そのような中で、5年生から受給できるこの奨学金の存在を知り、「こんな制度があるんだ」と興味を持ちました。
特に、給付型の奨学金である点が大きなポイントでした。返還の必要がないので経済的な負担が減り、気持ちが楽になりました。
奨学金によって、学校生活は変わりましたか。
いただいた奨学金は、通学の交通費や参考書の購入費、資格試験の受験費用などに充てました。
もともとコンビニでアルバイトをしていて、以前は週に3回、1回4〜5時間程度働いていました。それが奨学金を受給してからは週に1〜2回程度に減り、アルバイトの時間が約半分になりました。浮いた時間を勉強や研究、クラブ活動などに充てることができ、本当にやりたいことに集中できるようになったのがよかったなと思います。
クラブ活動は、具体的に何をされていたのでしょうか。
5年間ソフトテニス部に所属していまして、最後の高専大会では全国大会に出場できました。3年生の時にはインターハイに出場予定だったのですが、大会1週間前に原付バイクで転倒事故を起こし、足を怪我して出場できなくなってしまったんです。その経験もあり、高専最後の年に、高専だけの括りではありますが全国大会に出場できたのは本当に嬉しかったですね。

また、天文部も兼部し、学校の望遠鏡で星を観測したり、地域の小中学生向けに天体観測会を開催したりしていました。天体観測会は、大牟田市文化会館の職員の方と協力して毎年開催しています。当日見える星座や惑星について調べ、子どもたちに教えていました。
特に印象的だったのは、参加してくれた子どもたちが「初めて土星の輪っかを見た」と喜んでくれた時です。子どもたちの感動の声を聞いた時は、開催してよかったなと心から思いました。
最後に、高専への進学を考えている中学生に向けて、メッセージをお願いします。
高専は勉強やレポート課題が多いですが、普通の高校よりも自由度が高く、自分の興味ややりたいことに熱中できる環境です。
遠方から進学する人は寮生活に不安を感じるかもしれませんが、寮では毎日を共に過ごす仲間と深い絆が生まれます。私自身も寮での生活を通じてかけがえのない友人ができました。
勉強も趣味も全力で取り組めるのが高専の魅力です。受験頑張ってください!